水のないプール

 
 水にとぼしい武蔵野には住宅街や国道のほこり(空っ風)にまぎれて茶畑があります。‘逃げ水の里’といわれる由来は季節はずれですけれど、真夏のアスファルトにうつる水の幻影。蜃気楼。
 
 フラワーヒルという郊外住宅地は東京のベッドタウン。いつかは西武鉄道の駅も開通するということで、分譲されたときは“日本のビバリーヒルズ”という謳い文句でしたかしら。ショッピングセンターがあり、なんと住民専用のプールもあるのです(こども用小プールもあり)。親戚が住んでいたので夏になるとその広いプールで遊ばせてもらいました、くちびるが紫色になるまで狂ったように。ときどき売店で買ったカレー味カールを食べてデッキチェアでうっとり。自分の街がリゾートなんです、すごい。庶民の夢。

 写真は狭山茶のふるい炉です。数年前に撮りました。最寄り駅からてくてく歩いて1時間強かかったかな。真冬の木枯らしが頬に痛かった。雑木林のなかの鎌倉街道産廃銀座になってました。

 あのにぎやかだったプールはなくなってしまった。

 街から北上すると不老川というちいさな川があります。こどものころはドロドロのドブ川でしたけど、清らかな水の流れに鴨がくつろいでました。不老川(ふろうがわ、もしくは、とししらずがわ)については柳田國男の『武蔵野の昔』を引用させていただきます。

 「狭山の近傍に俗に年不取(とししらず)川という川がある。この川は毎年12月末になると水がことごとく地の底へ流れ込んでしまい、次の年の初めまで少しも地上を流れない。年取らずの名もそこから起こり、又逃げ水というのもこの川の事であると。この節は一見奇怪のようであるが、水の流れの時あって地下にひかれるのを、逃げるといった点だけは有りそうなことである。いずれの地方の水無瀬川でも、梅雨季の水量の多い時節には常の路を流れ、冬分の渇水時ばかり地下を通るのが普通であれば、この話のように除夜の晩に限って流れぬと言ったのは話であろうが、そうして逃げてしまう水は武蔵野には随分多いらしいのである」

ミズクライド


 Ms.Cried?

 いえ、「水喰らい土」と書きます。

 武蔵野台地には、厚い火山灰の関東ローム層の下に礫層があり、雨水がすべてそこに吸い込まれてしまうという伝説の土地があります。「ミズクライド」は、イラストの資料を探しに図書館に行ったとき、玉川上水関係の棚でみつけた言葉です。私は、東京の失われた川(暗渠:あんきょ)をめぐる旅、というか散歩が趣味で、ついつい仕事をはなれて、関係のない郷土史料まで集めてしまいます。
 玉川上水は、江戸への上水供給を目的として、玉川兄弟によって掘削されたものです。東京都羽村多摩川から取水して、今の新宿御苑あたりまで。現在、都心部ではほとんど暗渠になっており、緑道として人々のいこいの場所になっています。西武線拝島駅のちかくに、その伝説の土地があるそう。掘っても掘っても、水が吸い込まれてしまうので、しかたなく流路を変えたのですが、その苦労の掘り跡が、今も見られるとのこと。ぜひ訪れてみたいですね。
 ところで、ミズクライド、という語感が私には、武蔵野の丘陵に城をかまえる眠りの女王を思わせるのです。土奥深く、礫の砦を築きあげ眠りつづけるミズクライド、汗をぬぐい困惑する若い兄弟たち・・・。まったく、勝手な想像ですが。
 私のすむ地元、笹塚では、駅前で玉川上水が一部開渠となって、せせらぎが顔をのぞかせています。春から夏にかけては、水量も増え、土手際でせりを摘む人もいます。この水、実は、羽村から来ているものではなく、どこからともなく湧きだしているそう。

 春になれば、ミズクライドもお目覚めの季節、なのでしょうか。

 
 写真は、東京都文京区にて。
 まちで見かけた美女?眠りの女王ミズクライド(笑)をもとめて、フィルムカメラ片手に歩きまわった時に撮影しました。


 川と暗渠をめぐるブログ、『はてな』で細々とつくりはじめました。microjournalのriverエントリを編集・再構築していくつもりです。
 どうぞよろしくご愛顧の程、お願いいたします☆